世界最強の筋肉の持ち主たち〜歴代のミスターオリンピア
- 2021.10.04
- ミスターオリンピア2021
- Arnold Schwarzenegger, Chris Dickerson, Franco Columbu, Frank Zane, Larry Scott, Samir Bannout, Sergio Oliva

いよいよ今週末はミスターオリンピアが開催されます。
今回は、歴代のミスターオリンピアのチャンピオンを紹介しようと思います。
ミスターオリンピアでは連続で一人の選手がチャンピオンになることが度々あり、それはさながら一人の王による支配が続く王国に例えることができると思います。
また、その時々のチャンピオンの体の特徴を見ることで、その当時のオリンピアの流行というか評価を受けた体を知ることができます。
そして、その流行の変遷を見るのも面白いです。
ということで、1965年の初代チャンピオンから、最新の2020年チャンピオンまで見ていきましょう!
- 0.1. ラリー・スコット(1965〜1966)
- 0.2. セルジオ・オリバ(1967〜1969)
- 0.3. アーノルド・シュワルツネッガー(1970〜1975、1980)
- 0.4. フランコ・コロンブ(1976、1981)
- 0.5. フランク・ゼーン(1977〜1979)
- 0.6. クリス・ディッカーソン(1982)
- 0.7. サミアー・バヌアウト(1983)
- 0.8. リー・ヘイニー(1984〜1991)
- 0.9. ドリアン・イェーツ(1992〜1997)
- 0.10. ロニー・コールマン(1998〜2005)
- 0.11. ジェイ・カトラー(2006、2007、2009、2010)
- 0.12. デキスター・ジャクソン(2008)
- 0.13. フィル・ヒース(2011〜2017)
- 0.14. ショーン・ローデン(2018)
- 0.15. ブランドン・カリー(2019)
- 0.16. マンドゥ・エルスビエイ(ビッグ・ラミー)(2020)
- 1. まとめ
ラリー・スコット(1965〜1966)

記念すべき1965年、第1回大会の優勝者で、1966年大会も続いて2連覇を果たしました。
オリンピア以前にもミスターアメリカやミスターユニバースで優勝しています。
もともと、肩幅が狭く遺伝的に優れていたわけでは無かったと言われています。
ですが、上腕二頭筋の長さに恵まれており、プリチャーカールによってその上腕二頭筋を鍛えまくった結果、ボディビル大会に初めて50cm越えの腕を持ち込んだと言われています。
非常にバランスの良いフィジークに、ルックスの良さも相待って、とてもかっこいい選手です。
オリンピア優勝の当時は27、28歳と非常に若かったのですが、1966年のオリンピアで優勝した後、競技ボディビルから衝撃の引退。
その後はプライベートを大切にする生活をしていたようです。
セルジオ・オリバ(1967〜1969)

セルジオ・オリバはキューバ出身のボディビルダーです。
青年期にキューバ革命が起きており、バティスタ政権の軍で戦っていた経験を持っています。
フィデル・カストロが革命を成功させ政権を奪取した後、アメリカに亡命。アメリカでボディビルダーとして成り上がって行きました。
長い手足と細いウエスト、そして巨大な上半身を持っていた選手で、美しさと大きさを両立させた最高のフィジークを持っています。
アーノルド・シュワルツネッガーに「彼には勝てない」と思わせ、実際にミスターオリンピアで唯一、アーノルドに勝利した選手です。
握った拳を外側に向けて、両腕を持ち上げた「オリバーポーズ」は彼の代名詞。
細いウエストと巨大な背中が作るVシェイプの上に頭と同じほどの大きさに鍛えられた腕とが3つ並ぶ独特なポーズは
彼のフィジークだからこそ映える正にオリジナルのポーズでした。
ミスターオリンピアでは当時最高の3連覇を果たしています。
アーノルド・シュワルツネッガー(1970〜1975、1980)

史上最も偉大なボディビルダーとの呼び声も高い、伝説のボディビルダー。そしてボディビルの黄金時代を代表するボディビルダーです。
ミスターオリンピアではセルジオ・オリバの記録を抜いて6連覇と、それとは別に1980年に1勝を得て計7度の優勝を記録しました。
190cmを超える長身に大きく鍛え上げられた筋肉を纏い、今までのボディビルダーを圧倒するフィジークで登場し、業界を驚かせました。
今の時代から見ると大きさと美しさを両立させた体と見られますが、当時としてはその巨大さにおいて唯一無二の存在であり、ドリアン・イェーツ以前に”大は小に勝る”という価値観をボディビルに与えた存在なのではないかと私は思っています。
ボディビルを一般に広めることに多大な影響を与えており、現在活躍するボディビルダーでもアーノルドに憧れてボディビルを始めた選手が多くいます。
最も偉大なボディビルダーという評価は、そのようなボディビル業界への功績も含めた評価となっています。
フランコ・コロンブ(1976、1981)

アーノルド・シュワルツネッガーのトレーニングパートナーを長年勤めたボディビルダー。
彼もまた、アーノルドと共に、ボディビルの一般に普及させた選手の一人です。
もともとボクサーでしたが、次第にウェイトリフティングやボディビルに専念するようになっていきました。
165cm、85kgとボディビルダーとしては小柄でしたが、1976、1981年と2回ミスターオリンピアのチャンピオンになっており、 大きな選手に負けないハードさとマッシヴさを兼ね備えたフィジークをしていました。
その体を作り上げるために、非常に重たいウェイトを扱ったトレーニングをしていて、 ベンチプレス525ポンド、スクワット655ポンド、デッドリフト750ポンドなど、ボディビル界でも有数の強さを誇った選手でした。
フランク・ゼーン(1977〜1979)
Embed from Getty Imagesミスターオリンピアの中で最もプロポーションとバランスを追求した選手です。
フランク選手のフィジークは今で言えば完全にクラシックフィジークの体型で、筋肉の迫力ではなく美しさを全面に押し出した体でした。
彼の前の時代であるアーノルド、セルジオは「大きさと美しさ」がバランスされた時代を作りましたが、フランクは「美しさ」を追求した体の時代を築きました。
その時代はその後のクリス・ディッカーソン、サミアー・バヌアウトまで影響を与えたと思います。
クリス・ディッカーソン(1982)

フランク・ゼーンの3連覇の後、1980年のアーノルドの復帰優勝と、1981年のフランコ・コロンブの帰咲き優勝の次の年、1982年に優勝しました。
二人のカムバックを除けば、クリスが正当なフランクの後継者となります。
その体もフランクのものを引き継いで、非常に美しくバランスの取れたフィジークをしていました。
さらに、体だけではなくポージングの旨さも際立っていて、フリーポーズの時は、遷移の時に全くぶれない、流れるようなしなやかなポージングが特長でした。
サミアー・バヌアウト(1983)

前年の優勝者、クリス・ディッカーソンが出場しなかった1983年に新たにチャンピオンになったサミアー・バヌアウト。
彼もまたプロポーションに優れた選手でしたが、クリスやフランクと比較するとマッシヴさが加わっており、上半身の分厚み、背中の立体感、そしてカーフの大きさが特長的な選手でした。
彼は次の1984年にも出場していますが、リー・ヘイニーによってもたらされた新たな時代の中、第6位という成績に終わっています。
サミアーはチャンピオンの座を譲った後も、1994年までの長い間ミスターオリンピアに出場し続けた稀な存在でした。
リー・ヘイニー(1984〜1991)

アーノルド・シュワルツネッガーが打ち立てたミスターオリンピア7回の優勝という記録を抜き去り、8回の連覇記録を作り上げた選手です。
リー・ヘイニーの体はサミアーまでの体よりも、明らかに大きさの面で秀でており背中や肩の広がりが圧倒的でした。
それながら、ウエストの細さは前の時代を引き継いで、その細さを維持していたので、ある種奇妙なまでのVシェイプを形作っています。
このようにフランク・ゼーンが作り上げた「美しさ」の時代から、再び大きさにもスポットを当てたフィジークの時代に変化させました。
セルジオ・オリバやアーノルド・シュワルツネッガーの時代に戻ったとも言えますが、セルジオやアーノルドが体重が102kg程だったのに対し、
リーは116kg程であり、更にアーノルドの方が身長が高かったことを考えると、リーの方が大きさへのインパクトは強かったのではないでしょうか。
この流れはその後ドリアン・イェーツによって作られる「大きさ・迫力」重視の時代への転換点のような時代でもあったように思います。
ドリアン・イェーツ(1992〜1997)
それまでボディビルの重要な要素の一つであった「美しさ」を忘れさせてしまうほどの「大きさと迫力」をボディビルに持ち込み、 その後フィル・ヒース王朝の2017年まで続くマスモンスターの時代を作り上げた選手です。
巨大さに加え、体脂肪が極めて低く紙のような薄さの肌が筋肉にはりつき、「花崗岩」に例えられるハードな質感を作り上げており、 そこもまた今までに見たことのない迫力を与えていました。
1992年から1997年まで6連覇を果たし、最後の年では大会の3週間前に上腕三頭筋断裂の怪我を負ったにもかかわらず出場し、優勝してしまいます。
しかしその負傷により引退。この怪我がなければさらに長い間チャンピオンを維持していたかもしれません。
ロニー・コールマン(1998〜2005)
ロニー・コールマンはマスモンスターのイメージが強い人もいるかもしれませんが、初優勝した1998年では確かに巨大ではありましたが同時にプロポーション的にも優れていました。
ドリアン・イェーツよりはリー・ヘイニーの系譜に近いというイメージです。リー・ヘイニーを更にマッシブにした感じでしょうか。
その体を作り上げたのは、常識では考えられないほどの高重量を使ったウェイトトレーニングでした。ロニーはボディビルダーとしてだけではなく、ウェイトリフターとして見ても世界でトップの重量を扱っていました。
ロニーが巨大なウェイトを持ち上げながら発する咆哮、「ゲッバディー!!」、「ライッウェイッベイベー!!」はあまりにもインパクトがあってトレーニーの間では非常に有名です。
歳を重ねていくごとに、プロポーショナルだったフィジークがどんどん大きさを増していき、圧倒的な迫力を持つマスモンスターへと変化していきます。
多少プロポーションは崩れますが、それでもロニーの立体感のある背中をはじめとした圧倒的な迫力はステージを支配し続け、リー・ヘイニーと同じオリンピア最高記録である8連覇を成し遂げました。
ジェイ・カトラー(2006、2007、2009、2010)
Embed from Getty Images2006年に、ロニーの長期王朝を破って新時代を開いた選手です。
ジェイ・カトラーの体は大きく、よく引き締まってますが、プロポーショナルというよりはマッシブで迫力があり、ゴツゴツとした岩のような角ばったシェイプが特長です。
ロニー・コールマンよりはドリアン・イェーツの正当な後継という印象です。
ジェイはロニーに敗れ第2位になるというのを、2001、2003、2004、2005年の4度も経験しています。
その苦しい試練を乗り越えて2006年にミスターオリンピアの王座に付きました。その後2008年にデキスター・ジャクソンによりチャンピオンを奪われていますが、
2010年までの4度にわたりチャンピオンに君臨しました。
デキスター・ジャクソン(2008)
2020年に長きに渡った競技ボディビルに終止符を打って引退を表明したデキスター・ジャクソン。彼のオリンピアデビューは1999年で、その後2005年を除く21回、オリンピアに出場し続けました。これはアーノルドよりもリー・ヘイニーよりもロニー・コールマンよりも、他の誰よりも大きな記録であり、その意味では最も偉大なボディビルダーと言っても過言ではないと思います。
デキスターはマスモンスター時代において、唯一、バランスに優れた美しいフィジークでミスターオリンピアを優勝した選手です。
彼のフィジークにはバランスという言葉がしっくりきます。全ての部位が満遍なく鍛え上げられており、腕は太く、胸は熱く、肩は丸く、背中には立体感があり、ウエストは細く引き締まり、腹筋ははっきりと割れて、脚は太い。
そして全てが、大きすぎることなく美しく纏まっている弱点のない体でした。
このデキスターの優勝は、2018年のショーンの時のように時代の変化を予感させたかもしれませんが、2009年にジェイ・カトラーが過去全てのボディビルダーと比べても勝利できそうなフィジークで登場し、帰咲きを果たしたことでマスモンスター時代を継続させることになりました。
フィル・ヒース(2011〜2017)

2021年現在、最新のそして最後の王朝を築いた選手、それがフィル・ヒースです。
フィル・ヒースもこのマスモンスター時代の選手として捉えられていますが、ロニーと同様、2011年に初めて優勝した時の体は迫力はあれど、よく引き締まった美しい体をしていました。
フィルはデキスターの「全ての筋肉が満遍なく鍛え上げられた体」の全ての筋肉の発達を強化したバージョンと言えるかもしれません。
フィルの体も弱点を見つけることは難しく、全ての筋肉が大きく丸く膨らんでいます。
それでいて、初期のフィルはウエストも細く引き締まり、とてもバランスに優れたフィジークをしていました
全ての筋肉を大きく発達させることのできたフィルは、その優れた遺伝子を称えて「The Gift」と呼ばれていました。
その才能を活かし、後期に向かって体はどんどん大きく発達していき、ロニーと同じくマスモンスターとしてオリンピアを支配するようになっていきました。
ショーン・ローデン(2018)

大きくなりすぎたフィル・ヒースはバランスを崩しており、特にウエスト周りの膨らみ(バブルガット)が問題視されるようになっていました。
フィル以前にもロニーの後半や、その他の巨大な選手たちのバブルガットに批判的な意見は少なくありませんでした。
いくら大きく迫力があっても、お腹が出ていたのでは見栄えが悪い。それでは大きな筋肉も台無しだ、ということです。
そして2018年に、フィルを降して優勝したのがショーン・ローデンでした。
ショーンは現代ボディビルにおいて随一の細く引き締まったウエストと美しく並んだ腹筋、バランスの優れたフィジークの持ち主でした。
プロポーション派の選手として、2012年から2017年までのオリンピアで常に5位以上の上位成績を納めており、虎視淡々と優勝を狙っていたのではないでしょうか。
そして2018年は大会前から自信を漲らせており、ステージ上では持ち前のプロポーションに抜群の絞りを加えた素晴らしい体でフィルを撃破。この優勝はマスモンスター時代の終焉とプロポーションとバランスに優れたフィジークの時代への変化を期待させました。
しかし、ショーンはこの勝利の後、裁判トラブルによりその後の競技への出場が禁止になってしまい、それは今もなお継続中です。
ブランドン・カリー(2019)

2019年に、前年チャンピオンであるショーン・ローデンが不在の中優勝しました。
2011年のオリンピアデビュー当時から、引き締まったウエストと優れたプロポーションの持ち主でしたが、大きさの面では他の選手に劣っており順位は下の方でした。
ところが歳を重ねるにつれ、その大きさはどんどん進化していき他の選手を圧倒するほどマッシブに成長し、尚且つ引き締まったウエストは維持したバランスの取れたフィジークの選手となりました。
特に、背中の強さでは他を寄せ付けなかったフィルに対しても、2020年の直接対決では引けをとらないほどの背中の強さを誇っています。
優れたバランスを持ちつつ、マッシブさも加わっている、サミアー・バヌアウト的な立ち位置で、ショーンからの流れを維持していた選手だったと思います。
マンドゥ・エルスビエイ(ビッグ・ラミー)(2020)

現在の最新のミスターオリンピアは、2020年に優勝したビッグ・ラミーことマンドゥ・エルスビエイです。
ショーン・ローデンによってプロポーション重視の時代に変わったかと思われたミスターオリンピアを再びマスモンスター時代へと押し戻した存在です。
ビッグ・ラミーが今年も優勝したら、その流れは確固たるものになるわけですが、もし、優勝できなかったとしてもその流れは変わらないかもしれません。
なぜならビッグ・ラミーを倒すために、ブランドン・カリーは昨年のオリンピア後すぐにサイズアップを目指したトレーニングをしていたようですし、クラシックフィジーク出身のリーガン・グライムスも大きくサイズアップをしています。
また2021年アーノルドクラシックで優勝したルーキー、ニック・ウォーカーも年齢に似つかわしくない巨大な筋肉の持ち主であることから、今年のオリンピアが既に、大きさが勝利における重要な鍵になると思われるからです。
そして、ビッグ・ラミーは今年のオリンピアで優勝し、新たな王朝を築くことができるか、それが最も注目されているところですよね。
まとめ
ということで、歴代のミスターオリンピアを全員紹介してみました。
ミスターオリンピアには時代によって流行があり、それはその時々のチャンピオンによって作られてきました。
また、オリンピアでは長期にわたって、一人の選手がチャンピオンになり続けることが度々あります。
今のところ、最後の連続チャンピオンはフィル・ヒースですが、今年ビッグ・ラミーが次の存在になれるかが注目です。